寝ずの番とは?過ごし方から線香のマナーまで

2021年6月17日 葬儀の準備
寝ずの番とは?過ごし方から線香のマナーまで

寝ずの番は、かつて日本各地で行われていた葬式の慣習のひとつです。近年は葬儀の形が変化したこともあり、斎場・葬儀場などの都合によって寝ずの番が省略されるケースは少なくありません。しかし、地域によっては寝ずの番が行われることもあります。寝ずの番に参加する場合は、夜半の過ごし方やマナーを把握することが大切です。

そこで今回は、通夜に寝ずの番が行われてきた理由と、参加する際の一般的な過ごし方やマナーについて紹介します。

 

1.通夜に行う寝ずの番とは?

寝ずの番とは、通夜式が行われた後から夜が明けるまでの間、遺族が遺体に寄り添いながら故人を見守ることです。翌日に執り行われる告別式に向けて遺族の心を落ち着かせ、ゆっくり故人との思い出を偲ぶ時間ともなります。

寝ずの番を行う人は、故人のために灯す線香やろうそくの火を消さないよう、夜通し見張らなければなりません。寝ずの番は夜通し行われることから、「通夜」の語源になったとする説もあります。

 

1-1.通夜で寝ずの番が行われる理由

通夜で寝ずの番が行われるようになった理由には、主に3つの説があります。

◯医療が未発達だったため

医療が未発達だった時代は、今ほど人の死亡判定が正確ではありません。仮死状態に陥っていた人が、臨終を告げられた後に息を吹き返す事例もありました。そのため、確実に亡くなっているか確かめて埋葬まで見守る風習が、寝ずの番の由来といわれています。

◯衛生環境・安全面に配慮したため

寝ずの番には、一晩中線香を焚き続けることで故人の遺体から虫を遠ざけ、腐敗する臭いを緩和させるという役割があります。また、ろうそくを灯し続けることで野犬などが近寄らないようにするだけでなく、喪中となったことを周囲へ知らせる意味合いもあります。

◯死出の導きとなるため

仏教において線香の煙・香りやろうそくの火は、悪霊から故人の肉体と魂を守り、故人をあの世へ送り出す道しるべです。そのため、故人の魂が迷わずあの世に渡り切ることを願い、夜を徹して火を守らなければならないとされています。

このように、寝ずの番は時代的な背景や仏教の考えから、かつては必ずといっていいほど行われていました。

 

1-2.家族葬・半通夜では寝ずの番を行わないことも

近年の葬儀では、家族葬や半通夜が増えていることに伴い、寝ずの番が行われないケースもめずらしくありません。家族葬とは、故人の遺族や親族、ごく親しい友人のみが参列する小規模な葬儀のことです。半通夜とは、夕方頃から数時間程度で閉式する通夜式のことを指します。

もともと、線香やろうそくの火を灯し続けることが、寝ずの番における重要な役割です。しかし、近年では医療が発達して誤診が減った・衛生環境も向上したことによって、寝ずの番の必要性自体が下がっています。また、防災上の問題があることから、多くの斎場では一晩中火を灯し続けることができません。宿泊設備を併設していない斎場も多く、夜半を通して寝ずの番を実施することが難しいケースもあります。

そのため、弔問客が帰宅した後に遺族や親族がとどまる場合でも、寝ずの番を省略し、数時間程度で通夜を終了することが一般的です。

 

2.寝ずの番の過ごし方

家族葬や半通夜の増加により、通夜を夜通し執り行うことは減少しているとはいえ、今でも先祖代々続いてきた葬儀の形式を守っている地域もあります。葬儀を執り行う際は、時代の変化を踏まえつつ、地域の慣習を尊重しなければなりません。

ここでは、通夜における寝ずの番の一般的な過ごし方を紹介します。

 

2-1.行う人を決める

故人に寄り添う人を決める際に続柄・人数・席次などの制限はありませんが、故人の遺族や親族が寝ずの番を務めるケースが一般的です。寝ずの番は故人との別れを惜しむ儀式でもあるため、ほかの弔問客が帰った後に、静かにじっくりと思い出を語り合いたい人が参加することもあります。

また、寝ずの番では夜通し見守ることが前提となるものの、交代制を取ることも可能です。参加を希望する人と相談して、時間を振り分けるとよいでしょう。

 

2-2.線香・ろうそくの火を灯し続ける

寝ずの番では、線香やろうそくの火を絶やさないことが原則です。しかし、線香やろうそくを何本も供えてしまうと、かえってあの世に続く道がわかりにくくなるとされています。そのため、線香やろうそくが短くなるたびに、火を移し変えながら灯し続ける必要があります。

とはいえ、煙や火が消えたからといって、故人が成仏できないわけではありません。これは、どの宗派でも同じ教えです。途中で火が消えたことに気が付いたら、あらためて点火すれば問題ありません。近年では、長時間燃焼し続ける線香や、ろうそく型のライトで代用する例も増えています。「一晩中起きていられるか」「火の番を務められるか」と心配な人は、火元から離れて過ごしても問題のない灯りを利用しましょう。

 

2-3.故人と朝まで過ごす

故人を見守り火を灯し続けることが寝ずの番の役割とはいえ、徹夜は不要です。「故人を忘れない」「火を絶やさない」ことさえ心に留めておけば、遺族や親族が交替で休んでも問題ありません。ただし、親しい人間しかいないからといって、騒いだり笑い声を上げたりしないようにしましょう。

参加できる人数が少ない場合は、長時間用の線香やろうそく型のライトなどを活用することで、睡眠を取ることができます。通夜式の後には心身の疲れがたまっており、翌日には告別式や火葬なども控えているため、あまり無理をしないことが大切です。

 

3.寝ずの番でのマナー

葬儀に関連する事柄のほとんどは細かくマナーが決まっており、寝ずの番においても同様です。最後に、一般的な寝ずの番における参加者のマナーを紹介します。

ただし、地方の文化・葬儀のやり方によっては寝ずの番のマナーが異なるため、まずは葬儀を行う地域の慣習を確認しましょう。

 

3-1.服装のマナー

寝ずの番における服装の決まりはとくにありません。通常であれば弔問客などは帰宅済みであり、寝ずの番は遺族や親族などの身内のみで行われます。朝まで身内以外の誰かが訪れることはないため、ジャージやパジャマなどの格好でも問題ありません。

ただし、寝ずの番を自宅以外で行う場合は、目立つ色や奇抜なデザインの服装はマナー違反となる可能性があるため、避けるほうがよいでしょう。事前に斎場やお寺の職員、関係者へ確認し、場を乱さず、身体の負担にならない服を選ぶことをおすすめします。

 

3-2.線香・電気のマナー

寝ずの番で灯し続ける線香は、基本的に1本ずつ供えることがマナーとされています。ただし、宗派や慣習によって異なる可能性があるため、事前に確認することが大切です。線香に着火するときはマッチやライターなどを使用せず、ろうそくから火をもらいましょう。

線香を熱し過ぎて火が出てしまった場合は、軽く手であおいで落ち着かせ、煙だけが出ている状態にします。なかなか線香の火が消えない場合は、線香を縦に振れば火を消すことが可能です。仏教において「人の吐く息」は「穢れたもの」と考えられることから、線香やろうそくの火に直接息を吹きかけて消すことは避けましょう。火事を防ぐためには、周囲に燃え移りやすいものがないか、入念に確認することも重要です。

また、一晩中誰かが起きて火の番をする場合は、電気を付けっ放しにします。ろうそくをライトで代用して全員が就寝する場合は、天井の電気などを消しても問題ありません。明るい場所では眠れない人は、アイマスクなどを準備しておきましょう。

 

まとめ

寝ずの番では、通夜式が営まれた後に、故人を見守りながらあの世へ送り出すための道しるべを灯し続ける時間を過ごします。近年は、少人数かつ短時間で切り上げる家族葬や半通夜が増えており、斎場側の都合も相まって寝ずの番を行わない葬儀の形もめずらしくありません。

しかし、地方の文化風習によっては寝ずの番を重要とする場合もあるため、葬儀の際にはまず地域の慣習を確認することが大切です。地域のしきたりを確かめた上で、一般的な夜の過ごし方やマナーを守れば、大きな問題となることはありません。寝ずの番に参加する際は、近しい人たちと故人を偲びながらともに静かな夜を過ごしましょう。